「いずれも訳者が愛惜してやまない作品である」。旧ユーゴスラビアの作家イボ·アンドリッチの短編集「サラエボの鐘」(恒文社)に、訳者のひとりとして田中一生さんはそう記した。先月、旧ユーゴ文学の翻訳と紹介を半世紀にわたって続けた功績で、セルビア·モンテネグロ政府から勲章が贈られた。
アンドリッチは19世紀の末、オーストリア·ハンガリー帝国の行政下にあったボスニアに生まれた。国家反逆罪に問われて投獄されたこともある。61年に「自国の歴史の主題と運命を叙述しえた叙事詩的力量」によってノーベル文学賞を受けた。 バルカン半島は、民族対立や政治的混乱の印象が強い。アンドリッチは「然り、ボスニアは憎悪の地です」と書いた。そのうえで「対照的に、これほどの強い信頼、気高い強固な人格、これほどの優しさと激しい愛」が見られる土地は少ない、と述べている。 旧ユーゴが崩壊した後、セルビアと行動を共にしてきたモンテネグロが独立することが、国民投票で確定的になったという。福島県とほぼ同じ面積に、60余万の人が住む。小さな国の先行きはまだ不透明だが、「独立」への思いは強かった。 「ドリナの橋」などの代表作があるアンドリッチは、「橋ほど善にして貴重な物はなにもない」という。「それは人間が障害と出くわした処、だが怯(ひる)むことなく……可能な限りこれを克服し、架橋した場所を示している」 流血の歴史を克服し、民族が自立しつつ共存する。この独立が、人々をそんな未来へと導く橋になればいいのだが。 朝日新闻社 |
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发布于:2014-12-05 19:54
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